混沌の中に光るもの(終)
喘息大学学長 清水 巍

三月

うららかな陽、射し
梅ほころび
美しき女性の誕生か
桃花、艶然と
花開く

長き冬を耐え
枝という枝先に
さわやかな男性の誕生か
芽ふくらみ
緑、吹かんとす

花と緑の出会う時
あなたと私は
新しい花、新しい緑をつけて
この春を迎えるだろう
沈丁花の香りを添えて

長き人生を生き
この一年を生き
培かった全てを託し
花と緑を
咲かせよう

根を伸ばし、枝を広げあって
また出会いましょう。


12.誕生

 混沌の中に光るものを見つけようと一年の旅をしてきました。長い間のご愛読、有難うございました。厚く御礼申し上げます。
 当初は喘息に限らず一般の人向けになるようなエッセイになればと思い書き始めました。一年間はとにかく遊ぼうと思ったのです。遊んでいるうちに何かが見つかって、次からのシリーズはこうしようと納得のいくものに挑戦できるだろうと思ったのです。
 書いているうちに、読んで下さる主な人は喘息の患者さんであり、関係者の方々が多いということに当然のことながら気がつきました。木に登りて魚を求むるようなことを考えていたなと反省し、喘息と関係のあるエッセイに軌道修正しました。一般の雑誌などに書くならば、喘息のことばかり書くことは逆に許されないでしょう。そういう場が巡ってきた時にそうすればよいのであって、「わかば」のこの欄は喘息の関係者に役立つものでなければならないのです。
 それで四月からは「喘息をよくし治すために」と題して、新しい本を出すつもりで、基本的なことから書こうということに決心がつきました。「みんなで治す喘息大学」は皆さんのおかげで23,000部(こういう本が10,000を越えるのは希なそうです)以上が出ましたが、7年が過ぎました。医学も医療も日進月歩ですから古くなった所も出てきました。改訂版を出したいなという切なる思いも募ってきました。出版社はウンとは言ってくれませんので、「みんなで治す喘息大学」の改訂版となるように書き進めます。そこにはこの7年間の医学・医療の進歩、喘息大学や日喘連、わかば会の経験の進歩も反映されるでしょう。
 混沌の中に光るものを12項目探してきたのも、遊んだのも無駄では無かったと思うのです。一年ぐらい遊ぶことも、次の「誕生」を生み出すために必要なことでもあると思います。
 東京大学公開講座の53回目のテーマが「混沌」というものでした。諸先生がどんな論を展開しておられるのか読みたいと思って、東京大学出版会から本を取り寄せました。その中に面白いことが書いてありましたので紹介します。
 「混沌」という言葉は、中国の『荘子』の中によく出てくるのだそうです。荘子がいうには「昔、混沌(こんどん)という神様がいて、その神様が南海の神様と北海の神様を呼んでたくさんごちそうしてあげた。宴会が終った後にお礼に何を送ろうかと二人で相談をした。混沌には目鼻がないというので寝ている間に目を二つ、鼻の穴を二つ、口を一つ、耳の穴を二つ空けた。これでやっと混沌にも目鼻がついたと喜んでこんな素晴らしい贈り物はないと友だちは思っていたところ、混沌は死んでしまった。なぜなら混沌というものに目鼻をつけたら混沌でなくなる。秩序が入るわけだから混沌は亡くなる」のだという話です。湯川秀樹先生もこの話が大好きで、「混沌に目鼻をつけると、死んでしまうぞ」とよく申されていたそうです。ギリシャ語ではカオスと呼び、宇宙の創生に出てくる言葉です。そんなことが書いてあって、物理学、文学、芸術、科学、脳にとっても混沌という状態がとても大切なものであることが書かれていました。
 ですから、この一年のエッセイシリーズが混沌の中に終っても一向にかまわないということになります。しかし私の場合は「混沌」そのものを扱ったのではなく、その中で光るものを見つけようとしてきたのでありました。シリーズが終わるにあたりまして、混沌に目鼻がついたというのではなく、混沌の中に光るものの最後は混沌からの新たな「誕生」なのだということで、しめくくらせて頂きたいと思います。四月からの「喘息をよくし治すために」の誕生へと続きます。
 今年の梅の花、桃の花を見て、冒頭に掲げた下手くそな詩(このシリーズのおかげで少しは作詩できた。これからしばらく作らないでしょう)が誕生しました。その新鮮な花々の中に今年の女性の患者さんの姿を見ました。この花々のごとく、春をお迎えになるに違いないということです。また、その花々をいつくしみ、支えるごとく男性的な緑の葉が芽吹いていました。その緑と芽を見るうちに男性の患者さんたちの、今年の春の勢いを感じました。私の家にある貧弱な庭先の沈丁香は蕾をピンクにふくらませ、青い葉がそれをしっかり支えていました。かくの如く今年の春も誕生します。
 この冬、第一回アレルギー学会専門医試験が東京でありました。無い頭を絞って秋と冬勉強しました。試験は難しいので落ちると思い誰にも言いませんでした。三月に入り合格通知が来ました。良いか悪いか別として専門医清水も誕生しました。
 みなさんはこの春、何を誕生させるつもりでしょうか。健康という花や葉だけでなく、これまでの人生に根ざした花と葉を、昨年よりはよりましに、美しく咲かすという課題があるのではないでしょうか。このように花や葉が沢山誕生するように、この春、沢山の誕生があり得るのです。
 時が春に巡っていくという時は命が燃え立つように影響を受けるものです。一年一年が新しいあなたの誕生である、そういうあなたを今年の春に誕生させて下さい。
 時は春に向いますが、医療情勢は冬に逆戻りします。四月から診療報酬制度が改悪されます。消費税を3%取っているのに老人医療費に一銭も回すことなく、老人医療費、その他が国の医療費を圧迫しているという理由で、個室など室料差額(2人でも4人でも、6人でも室料差額とることも、部屋によっては可能とする)を50%まで拡大を認める、入院でも外来でも1回、10種の内服剤までしか実質認めない、入院を長くしている患者の医学管理料を漸減的に低くして(2週まで5470円、1ヶ月以上2ヶ月以内2460円、1年半以上1000円)政府・厚生省は早期退院の政策を実行します。医療や喘息に春をもたらす、そういう強い患者会、喘息大学、喘大同窓会、日喘連を誕生させていこうではありませんか。終り。
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